おめめの歯形

自分の足跡を残すというより、必死に食らいついて歯形くらいしか残せない

今なんてロング缶片手

ニュースで野球選手と女優の結婚が発表された。


てっちゃん、見た?
あの野球選手さ、2人で甲子園の予選で見た子だよね。すごく暑い夏の、てっちゃんの母校のグラウンド。
「俺の高校の後輩なんだよね」って興奮して話してた。


野球好きのてっちゃんに連れられて、私、沢山球場へ行ったけど、あの子の事はとくに覚えていたよ。


プロになってからも好調で、ついに結婚だって。まだ若いのに。でも、スポーツ選手は結婚が早いんだよね。年上女房となる相手の女優、私、好きだよ。


夏の日にあの子をグラウンドで見た時は、

てっちゃん、絶対にこの子はプロになって活躍するって興奮気味に話してたよね。


あの時、あの時はさぁ。
私たちが結婚する予定だったんだよね。
お互いの親にも紹介済みでさ。
週末っていったら野球見にいってた。


私の左手の薬指にはバンクリが輝いて。

あれさー、嬉しくて嬉しくて、一日何回眺めたかわかんないんだ。

 

その時はさ
あの子がドラフト指名されるのを、リビングで眺めるてっちゃんを私がキッチンから眺めているとか

あの子がプロ初登板になったのを、興奮してビール片手に笑うてっちゃんの隣にいる私とか簡単に想像できていた。

だって、私の左手にはキラキラのバンクリだよ?


野球なんて全然好きじゃない私。
私が聴くロックを好きじゃないてっちゃん。


てっちゃんちの引き出しのタオルをキレイに並べたら怒られた。


旅行中にスマホゲームしてたから怒った。


朝ごはんに時間かけすぎるとか、シャワーヘッドの向きですら言い合いになったのに。


でも、2人とも思ってた。


結婚するんだから。
結婚してから治してもらえばいいや。
馬鹿だったね。


今、この時に言えない事が、未来で言えるわけないのに。


てっちゃん、あの子、結婚したね。

 

てっちゃん。

あのね。

私もね。

 

結婚したんだ。