おめめの歯形

自分の足跡を残すというより、必死に食らいついて歯形くらいしか残せない

加瀬亮

加瀬亮にフラれる一歩手前の夢を見た。
念押しで言っておくが、もちろん現実で付き合って(※付き合えて)などいない。

 

しかし、昨夜から今朝にかけ、2人の間には恋愛における一連の流れというものが確かにあったのだ。(夢の中で)

自らか、加瀬亮からか、告白みたいなのがあって、付き合ってんだろうし。(想像)
「おめめちゃん」「亮」と呼び合っているし。(夢の中で)
2年ちょっとの時を一緒過ごしてるらしくて。(もう、2年ちょっと経つしなぁと思った私がいた、夢の中で)
マンネリがきてて。(何故かデートがちっとも楽しくない設定)
私は彼に冷たくなって、彼にも新しい女の影がチラホラ見えたりして。(新しい女は全身ジバンシイという見たこともねぇ知らないやつだった)

 

仕事帰りに駅で待ち合わせた加瀬亮
「明日、大事な話がある」と不意をついて言われた。(ちなみに加瀬亮はサラリーマンの設定)

 

別れ話だと瞬時に察し、ものすごーく、気が重くなった。


券売機の前で急に言われたから、人目も気になって、いや、今はプライドとか変なのいらないじゃん、と思いつつ、やっぱり気になって。
彼の腕を引っ張って、見つけた柱の陰に2人でたたずむ。


地下鉄の駅だった。

 

見上げた彼を見て、別れるのが嫌だと気づく。

 

不必要に緊張しながら、
「明日とか、そうゆうの嫌いじゃん、私。今、ここで言いなよ」と目を見て言った。

あー、こんなこと言いたくない!なんでこんな言い方しかできないんだ、私はバカだ、と夢の中の自分は心にもないことを可愛げもなく言ってのける。
が、この辺は現実の私そのもの。

 

加瀬亮はあの優しい微笑みで
「今でもいいけど、おめめちゃんが、きっと嫌だって言うよ。だから、明日までには、俺の話にうんって言えるおめめちゃんになってて」
と言ってのけた。

 

私は号泣した。
なんでもっと大切にしなかったんだろう
もっともっと、ちゃんと、大切にすれば良かった。

 

加瀬亮は「なに、なんで泣いちゃうの」
と言って抱きしめてくれた。

 

私は加瀬亮の胸でごめんなさいを何回も何回も言って、もう絶対手に入らない彼の気持ちに対して、今更、がむしゃらに手を伸ばした。


優しさしかない彼は、それのみで私を包んで、とっくになくなった恋とか愛とかは、全身ジバンシイの女にカタチを変えて向かってるんだ。

 

加瀬亮は笑顔のまじった困り顔で、泣かないで、明日ちゃんと会おう、と言ってたけど、私はそれどころじゃなくって、ちっとも。

 

明日なんて来なければいい、とにかく彼を離したくなくて、回した腕にぎゅうっと力を込めた。

 

目覚めは最悪だった。
ものすごーく、切なかった。


ブルー、それ以外のなにものでもない。

なんでフラれなきゃなんないんだ。
夢ならせめて、幸せな夢を見させてよ。
秋の美術館デートでも、クリスマスのロマンチックなプロポーズでも、ジューンブライドでもいいじゃん!

 

ブルー。
とにかくブルー。

 

芸能人登場の夢なんて勝手にどんどん見させてもらってるけどさ。
こんなん初めてだよ。
勝手にすったもんだをしてんな、って加瀬亮さん、ファンからお怒りの声が聞こえそうだけどね。

 

いやでも。無抵抗の思考回路だからね、私。
辛いやん、失恋って辛いやん。
正確には失恋の一歩手前だけど、それもそれでキツイやん。

 

1ミリも手に入っていない加瀬亮にフラれる直前の謎。


朝起きて、傷心の私は珈琲を淹れながら夫にこの話を丁寧に愚痴った。


「どうかしている」


取り付く島もなく、夫はぽっと言い放ち、会社へ出勤していった。


私は洗濯機を回したあと、ソファでコーヒーを飲みながら、夫の言葉が全てのオチだなぁとしんみり思った。


それでも手元のスマホで【加瀬亮】をエゴサーチし始めた私は、やはりどうかしている。